わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 それから二十日経ったころ。
 ネイサンが、クラリスの森の散策に同行してくれる人物を探していた。
 以前からクラリスは温室の裏にある森に入りたいと言っていたのだが、許可が下りなかった。理由は、毒を持つ危険生物やら植物がたくさん生息していること、たまに魔獣が出ること。つまり、危険だからだ。
 しかしクラリスはしつこくネイサンに頼んでいたようで、そのネイサンは困り果ててユージーンに手紙で相談していたらしい。その返事が来て、護衛となるような者を同行させることを条件として、クラリスの森の散策が許可された。
 だからといってクラリスを護衛の者と二人きりにさせるわけにはいかない。そのため、侍女の中から誰かつけようと考えていたようなのだが。
「奥様が森の散策ですか? 私が同行します」
 メイとしては何も問題はない。
 クラリスと護衛のカロンとメイの三人で、裏の森へ入ることとなった。カロンという男性は四十代で、既婚者で子どもも三人いた。
 初めて足を踏み入れた裏の森は、人が並んで歩くような道はなかった。獣が通ったような獣道と呼ばれる、草木が倒され生えていないような道。
 木々が生い茂り、太陽の光を遮り、地上に届くのは本来の十分の一ほどだろう。晴れていたせいか、森の中であっても人の顔の判別はできるし、獣道もよく見えるくらいの明るさはある。
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