わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
第五章:仮初め x 夫婦
 慰労パーティーが近くにあるというのに、クラリスはなぜかユージーンと裏の森を散策していた。
「パーティーの準備はジョナサンに任せておけばいい」
 それがユージーンの言葉で、城館では使用人たちがあれよあれよと準備に追われている。
 クラリスも慌てて何か手伝いをしたほうがいいのではと言ったのだが、主人が近くにいれば、使用人たちもいらぬ気を遣うとのことで外に出た。その結果、ユージーンと裏の森の散策である。
「数日後にパーティーなのに、本当に準備は間に合うのでしょうか?」
 パーティーと言えばおもてなしの場である。
 何日も前から食事をどうするか、ああだこうだと儀典長と打ち合わせをするアルバートの姿を目にしたこともある。そういうときも、クラリスはつかず離れずの場所で彼を見守っていたのだ。
「ああ、何も心配ない。いつものことで彼らも慣れている。それに、王城で開かれるようなお堅いパーティーとは違うからな」
 前を歩くユージーンは、振り返りもせずにそう言った。
 王城とは違う。この一言がすべてなのだろう。
「クラリス。ここは少しぬかるんでいる。足元が汚れる」
 昨夜、少しだけ雨が降った。それでも朝にはすっかりと土は乾いていたから、温室まで行ったときには気にならなかった。だけど、この薄暗い森ではすぐには水も乾かないのだろう。さらに、そこだけ雨水の通り道になっていたにちがいない。
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