わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「断れるわけないですよね。国王陛下からの命令ですからね。ですが、毒女がものすごく嫌がって、死んでやるとかそんなことまで言って騒いだら別かもしれません。っていうか、あの女ならそこまでやりそうですけど」
 残念ながらユージーンは毒女であるクラリスと顔を合わせたことがない。アルバートの腰巾着と言われるようになったのも、最近なのだろう。
 だからネイサンが先ほどから力説している内容に同意できないのだ。どこか一歩引いて、冷静にそれを聞いていられる。
「俺からクラリス嬢に手紙を書いてもいいだろうか」
「いいんじゃないですかね? 二人の仲を深めるためにもって、毒女を辺境伯夫人として迎え入れるつもりですか?」
「いや、だが。こちらからは断れないだろ? それならば向こうの意思を確認しておくのも必要ではないのか?」
 もしかしたら、本当に泣いて叫ぶほどユージーンとの結婚を嫌がっているかも知れない。そうであれば提案したい内容がある。それを伝えたいのだ。
「結婚したとしても、その事実さえあれば国王は納得するはずだ。もちろんアルバートもな。この手紙には結婚しろと書いてあるだけで、離婚してはならないとは書いていない」
 結婚した事実をつくり、それ以外はお互い好きに生活すればよいのではないだろうか。いわゆる、白い結婚と呼ばれるものだ。ようは紙切れ一枚の関係。
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