わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ユージーンはぬかるんでいる場所を大きくまたいだ。その後、すぐに振り返り、クラリスの腰を両手でしっかりと掴む。
 クラリスの身体はふわっと浮き、いつの間にか地面に足をつけていた。
 何が起こったのか。ユージーンがクラリスを抱き上げたのだ。そしてそのぬかるみに足をとられないようにと、少し離れた場所におろした。
「あ、ありがとうございます」
「汚れていないか?」
「大丈夫です。ですが、一言、声をかけてくださると助かるのですが」
「なぜ?」
 ユージーンは真顔で見下ろしてくる。しかも、距離が近い。
「お。驚いたからです」
 突然の出来事すぎて、心の準備もできていなかった。不意に身体を持ち上げられ、気がついたらユージーンの近くにおろされていた。
「そうか、驚かせてすまなかった」
「い、いえ……」
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