わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 なぜかクラリスの顔が熱くなった。きっと顔も赤くなっているにちがいない。だけど、太陽の光が弱いこの場所では、ユージーンは気づかないだろう。
「いつもは森で何をしているんだ?」
 先に進みながらユージーンは尋ねてくる。
「そうですね。植物や虫の採取です」
 ユージーンからの返事はなかったが、なぜかくつくつと笑い声が聞こえた。
「何がそんなに面白いのです?」
 真面目に答えたのに、それを笑われたら誰だって面白くはないだろう。
「ああ、すまない。やはり君らしいと、そう微笑ましく思っただけだ」
 そう言われても、やはり面白いものでもない。それでも、クラリスの気持ちを跳ねさせたのは、木にくっついている毒虫を見つけたからだ。
「あ」
 毒をもつ蜘蛛。この蜘蛛はなかなかお目にかかれない。
「旦那様、申し訳ありません。虫を捕まえます」
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