わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ユージーンがずんずんと先に進んでしまわないように、声をかけた。すると彼は振り返り、クラリスの様子を黙って見守る。
 クラリスは、木の枝に巣をつくりその真ん中にいた毒蜘蛛をささっと手で捕まえて瓶に閉じ込めた。その一連の動作に躊躇いはなく、あっけないものだった。
「もう、終わりか?」
 おもわずユージーンもそう呟いてしまうほど。
「はい。毒蜘蛛を捕まえましたから。毒蜘蛛は牙で噛んで毒を注入してくるのですが、なかなか王都ではお目にかかることができず」
 そもそも、王都は危険生物が少ない。ゼロではないが、一か月に一人、二人、危険生物に噛まれた、刺されたとそういった頻度である。王都とウォルター領の人口比を考えれば、ウォルター領では一年に一人、二人いるかいないかのものになるだろう。
「まあ、俺だって毒蜘蛛は見ないな。ここくらいにしかいないだろう」
「むしろ、この場所が居心地よいから、他にはいかないのでしょうね」
 毒蜘蛛だって、その場所に餌が豊富にあるならば、わざわざ他の場所にはいかないだろう。餌がなくなるから、場所を移動するのだ。
「なるほど。そう考えたことはなかったな。危険生物にとって、この森は居心地がいいということなんだな」
「そうですね。むしろ、ここで生活をしてくれるのであれば、わたくしたちの生活領域に姿も現さないと思います。たまに、何かの拍子でこちら側に紛れ込んでくる子もいますけれど」
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