わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 使用人たちは、慰労パーティーの準備で慌ただしい。その準備にクラリスが手を出す必要はなさそうだ。
 ユージーンは執務室内で仕事をこなしているようだし、そうなればクラリスも一人で温室にこもる。行き来だけはメイが付き添ってくれたが、彼女もパーティーの準備に駆り出されている。
 だからクラリスも一人で温室に向かうと口にしたのだが、移動だけは付き添いをするとメイも頑なに言い張った。
 クラリスは温室の端っこに、作業場を作っていた。といっても立派なものではない。ただ敷物を敷き、長時間座ってもお尻が痛くならないようにとふかふかのクッションをいくつか持ち込んだ場所だ。作業をするとどうしてもいろいろな道具や材料を広げてしまうから、狭いテーブルではやりにくい。そうやって試行錯誤した結果である。
 この作業場では薬を作ったり、危険生物や毒植物から毒を抽出したりを行っている。
 たいてい作業に没頭してしまうと、時間があっという間に過ぎる。
 それもあってか、メイが行き来の付き添いを申し出てくれたにちがいない。彼女が迎えに来てくれなかったら、時間を忘れて作業に没頭している。実は、今までにもそういったことが何回かあった。
 さすがにユージーンが戻ってきた今、夕食の時間になっても戻らないクラリスを探すような状況を作ってはならないと思ったようだ。
 暗くなってもランプを灯せば、作業には十分な明かりである。水場もあるし、むしろここで寝泊まりしてもクラリス的には問題ないくらい。
< 136 / 234 >

この作品をシェア

pagetop