わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ふと、手元に影ができて、顔をあげた。
「あ、旦那様。どうかされましたか?」
 なぜか目の前にユージーンが立っていた。
「どうかされましたか、ではない。君の部屋に行ったら君はいない。メイを捕まえて聞いてみたら、温室に一人でいると言うじゃないか」
「え、えぇ。そうですけれど、それが何か?」
 クラリスが困ったようにコテンと首を横に倒した。なぜかユージーンは苛立っているように見える。
「お供もつけないで、危険じゃないか」
「心配ありません。来るときはメイが付き添ってくれましたし。みなさま、パーティーの準備で忙しそうですから、邪魔しないようにこちらにいたのです」
 それはただの口実だ。いつも時間が空くと、クラリスはメイを連れて温室を訪れていた。だからクラリスにとってはいつものこと。
「だが、ここはいくら敷地内とはいえ、城館の外だ。人の目が届きにくい」
「そうおっしゃられましても……作業をするのであれば、こちらのほうがよいかと思いまして。さすがに室内で毒を抽出したら、他の方の迷惑になりますから。ここであれば、あのようにして風の抜け道を作ってさえおけば、温室内に滞留することはありませんから」
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