わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ユージーンが眉間に深くしわを刻む。
「……だが、何かあったらどうする?」
「今まで、何もありませんでしたよ?」
 すると、彼のしわは余計に深くなった。
「今まで? なるほど。これだけ揃えるには、一日二日ではできないな」
 そこでユージーンはぐるりと周囲を見回した。
「旦那様。わたくしは毒師です。結婚しても、毒師であることにかわりはありません」
「俺は君が毒師であることを否定したいわけではない」
「そうですか。わたくしには、旦那様がここで作業をすることを嫌がっているように聞こえましたので」
「そうだな。この場所はダメだ。先ほども言ったように、人の目が届きにくい。違う場所に作業場を作ろう」
 クラリスは驚きのあまり目をパチパチと瞬いた。
「え?」
「なんだ? 不満か?」
「い、いえ……」
 不満ではない。ただ驚いただけ。
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