わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「先ほども言ったように、俺は君が毒師であることを否定したいわけではない。むしろ、それを続けてもらってかまわない。毒師は、この国にとっても貴重な存在であるし、むしろウォルター領にとって、君はなくてはならない存在だ。魔獣だけでなく、危険生物に悩んでいる領民も多いからな」
 ドキンと心臓が跳ねた。
 なくてはならない存在――それは、クラリスを喜ばせるには十分な言葉である。アルバートからぽいっと捨てられたというのに、ここでは必要としてくれる人がいる。
 そんな想いが、ぽこぽこと泉のように湧き始めていた。
「作業場は作るが、今日、明日では無理だ。だから、それができるまではここを使ってもかまわないが、必ず俺に声をかけてくれ」
「どうしてです?」
「……俺が、心配するからだ」
 今度はトクンと胸が高鳴った。
「わかりました……」
 なぜかユージーンの顔を見ることができない。うつむきながら、小さく答えた。
「その作業はいつ終わる?」
< 139 / 234 >

この作品をシェア

pagetop