わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「え? あ……」
 彼の顔を見るのが恥ずかしかったのに、そう声をかけられてつい、顔を上げてしまった。慌てて視線を下に戻す。
「す、すぐに終わります。片づけますから」
「そうか。では終わるまで待っていよう。何も焦る必要はない」
 クラリスが片づけをしている間、ユージーンはただ黙って待っていた。何が面白いのか、クラリスの動きを目で追っているのだ。それを気にしないように振る舞うのに、少しだけ緊張した。
「お待たせして申し訳ありません」
「……いや。君こそ、作業はよかったのか?」
「はい。いつもメイが呼びに来てくれないと、いつまでも作業を続けてしまうので……。だから、呼びに来たところでおしまいなのです」
「なるほど」
 小さく頷いたユージーンが自然と手を差し出してきたので、クラリスは躊躇いつつもその手を握った。
「とにかく君は、何かに夢中になるとすぐに時間を忘れてしまうわけだな」
「ええと、まあ、はい。そうですね」
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