わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 彼の指摘に否定はできない。
「だったらなおのこと。もっと他の者の目が届きやすい場所に作業場を用意しよう。温室だって、ここではなく他の場所に用意するつもりだったのに、君が断ったのだろう?」
「ええ。旦那様が思っている以上に、ここの温室は素晴らしいですよ?」
 クラリスの言葉に、ユージーンはなぜか苦笑した。
 彼とは出会ってまだ数日だというのに、何度このように手をつないで歩いただろう。いや、それだってほんの数回なのだ。ただ、そう思ってしまうくらいに、常に近くにユージーンがいるような気がする。
 温室から出ると、空は茜色に染まっていた。城の尖塔の側に太陽が見えるものの、その位置はだいぶ下がっている。
「パーティーは明後日だ。明日は、当日の流れを確認してもらう必要があるが、前もいったように王都のパーティーとは違うからな。それほど気負う必要はない」
 よくわからないけれども、彼がこうやってかけてくれる言葉が、クラリスの心を軽くしてくれるのだ。
 ウォルター領に来てから、初めて開催されるパーティー。本来であれば、失敗させてはならない、みっともない姿を見せてはならないと気合いをいれるところなのだろうが、彼のおかげが肩肘張らずに済んでいる。
 だからつい「どのようなパーティーなのか、楽しみです」と、クラリス自身も意識せぬうちに、ぽろっとこぼしてしまった。

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