わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ユージーンがクラリスにグラスを手渡した。オレンジ色の液体は、果汁のようにも見える。
「……皆、無事に戻ってきてくれた。彼らの功績を称えて、乾杯!」
 壇上のユージーンの言葉に合わせて、一斉にグラスが掲げられた。
 クラリスにとっては初めて目にする世界で、何をどうしたらいいかがわからない。とにかく、一口だけ飲んで、喉を潤す。
 ユージーンはグラスの中身を一気に飲み干した。
「よし、みんな。聞いてくれ」
 彼はまた、声を張り上げる。歓談が始まりつつあったのに、その声でシンと静まり返った。
「知っている者もいるかもしれないが、俺の妻となったクラリスだ。彼女はこのウォルター領を明るく輝かせる存在となるだろう」
 たったそれだけであるのに、会場にはわれんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。
「これからはクラリスと共に、このウォルター領を治めていきたいと思う。お前たちも、何か思うことがあったら遠慮なく声をあげてくれ」
 ユージーンがクラリスの腕を引っ張った。
「クラリス、簡単でいいから挨拶を」
 急に言われて心の準備などできていない。それでも人々の関心はクラリスに向いている。
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