わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「あ、はい。クラリスです。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします」
 また拍手が沸き起こる。その拍手の中から「お姉ちゃん」と呼ぶ声が聞こえた。
「……あっ」
 するとユージーンが怪訝そうに目を細くする。
「知り合いか?」
「え? あ、はい。以前、ネイサンと街へ行ったときに、そこでちょっと……」
 クラリスがすべてを言い終わらぬうちに、男の子が近づいてきた。
「お姉ちゃん。領主様のお嫁さんだった?」
「え、えぇ。そうね……」
 男の子の後ろには両親と思われる男女が立っていて、男のほうは軍服姿である。
「なんだ、お前の息子か?」
「あ、はい。団長。以前、息子が奥様に助けていただいたそうで……お礼を言わねばと思っておりまして……」
 ユージーンは状況がわからないようだ。それでも、その場の雰囲気を読んだのだろう。
「そうか」
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