わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「本当にあのときは、ありがとうございました」
 男の子の母親が深く頭を下げた。
「あ、えと。お気になさらないでください。わたくしは、薬師として当たり前のことをしただけですから」
「ですが、あのときは奥様だとは知らず、失礼な態度を……」
「子どものことが心配であれば、誰だってああなります」
 クラリスがニッコリと微笑めば、女性は感謝の言葉を繰り返す。
「せっかくのパーティーですから、楽しんでいってください」
 その言葉に、女性はさらに深く感謝の意を示した。
 親子がペコペコと頭を下げながら離れていくのを見届けると、ユージーンが強引に腰に手をまわす。
「俺のいない間に、何をしたんだ?」
 いつもより低い声で、耳元で尋ねてくる。吐息が耳たぶに触れ、クラリスは少しだけ身体を震わせた。
「何をって、今も言いましたとおり、薬師として当たり前のことをしただけです。あの子が突発的に発熱をしたそうで、そのとき、たまたまネイサンと街へ行ったときでしたので。たまたまあった薬をあの男の子に飲ませました」
「なるほど、たまたまだな……」
 その含みの持たせる言い方に、クラリスはなぜかドキリとした。
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