わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「まあ、いい。今日はパーティーだからな。君に紹介したい人たちがいる」
 ユージーンはクラリスの腰を抱いたまま、移動する。これでは不便ではないのだろうかと思うものの、彼は腕をゆるめようとはしない。だから、普段よりも近くに彼を感じる。
「奥様」
 ユージーンと場所を移動していると、また誰かから声をかけられた。
「あのときは、お世話になりまして……」
 そう言い出した年配の男性は、やはりネイサンと街へ行ったときに、薬を与えた男だった。外で野菜売りをしていた彼は、その場でぐったりとしていたのだ。おそらく日に当たりすぎて、体内に必要な水分が奪われたのだろう。
 すぐに水分を与え、薬も溶かして一緒に飲ませた。
「いいえ。わたくしは薬師として当然のことをしたまでです。あのあと、同じような症状は出ていませんか?」
「はい。奥様に言われたとおり、生活しておりますから」
 男は少しだけ恥ずかしそうに笑った。彼はちょうど妻と喧嘩したときで、自暴自棄な生活を送っていたらしい。そういった不摂生な生活もあって日差しを浴びたため、身体が暑さと明るさに負けてしまったのだ。
< 147 / 234 >

この作品をシェア

pagetop