わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「あのときは、奥様だとは思わず。しっかりとお礼も言えず、申し訳ありませんでした」
「あなたがこうやって元気な姿を見せてくれたことが、わたくしにとってはお礼以上に喜ばしいことです」
 男はペコペコと何度も頭を下げてから去って行く。その先には、彼と同じ年代の女性がいたから、彼女が妻なのだろう。
 ぐいっと、身体を引き寄せられた。
「今の男も助けたのか?」
 ユージーンである。
「は、はい。ネイサンと一緒に街へ行ったときに……」
「ふむ。ネイサンからはなんの報告も受けていないな」
「報告するまでもないと判断されたのではないでしょうか? わたくしが好き勝手に助けただけですから」
「なるほど。今後は、そういったことも逐一報告するよう、ネイサンにはきつく言っておこう」
 なぜかその言葉に棘を感じた。もしかして、苛立っているのだろうか。
「団長~」
 目の前に、大きく手を振る軍服姿の男がいる。
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