わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「旦那様、そろそろ他の方にも……」
 仕方なくクラリスが助け船を出すと、ユージーンの顔は一気に自信に満ちあふれる。
「そうだな。悪いな、ジャコブ。そろそろ他に顔を出さねばならない。またあとで」
「あ、団長。逃げるつもりですね。まあ、今は仕方ないですが……次は逃がしませんからね」
 ユージーンはクラリスの腰を抱きながら、空いている手を肩越しにひらひらと振ってその場を去る。
 少し離れたところでユージーンが口を開く。
「クラリス、助かった」
「わたくしとしましては、もう少しお二人の様子をみていたいところでしたが、他にもたくさんの方がいらしているのでしょう?」
「そうだ。ウォルター領はさまざまな人によって支えられているからな。危険生物も多く国境の街であるのに、こうやって皆が暮らせるのは、そんな一人一人のかげでもあるんだ」
 そう言った彼が、次に紹介しようとした人物は、ウォルター領にある教会にいる司祭であった。
 ところが、もちろんクラリスは司祭とは顔なじみだ。
 クラリスは形式的に司祭に挨拶をしたものの、やはりあの薬はどうのこうのという話になり、そうなればユージーンが怪訝そうに顔をしかめる。
「ネイサンと街へ行ったときに……」
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