わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「はは。なかなかうまいじゃないか」
「ありがとうございます。ですが、こちらに来てから、ダンスのレッスンはさぼっていたかもしれません」
 かもしれない。ではなく、ダンスレッスンなどまったく行っていない。やれとも言われなかったし、やりたいとも思わなかった。それよりは、毒草を育て毒虫を捕まえ、薬を作っていたほうがいい。
 ふわっと身体が浮き、スカートが大きく空気を孕む。
「きゃっ」
 突然のできごとに小さく悲鳴を上げると、ユージーンはニヤニヤしているし、周囲からは「おぉおお」と歓声があがる。
 そうなれば、他の人たちもパートナーを持ち上げる。
 ジャコブの相手は、いつの間にか小さな女の子になっていて、その子もふわっと宙を浮いた。
「旦那様のせいではないのですか?」
「楽しければなんでもありだ」
 他にも踊りたそうにしている者がいたため、その場を譲る。
 給仕から飲み物を受け取ったユージーンは、クラリスに一つを手渡した。それを受け取ろうとしたとき、クラリスはふらりとめまいを覚える。
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