わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 それだけ聞いても、ユージーンがウォルター領をどれだけ愛しているかが伝わってきた。彼は、ここの民を大事にしている。
 休憩室へ案内されると、花柄のふかふかのソファにおろされた。
「人が多くてあてられたか? 何か、飲み物を用意させよう」
「いえ。ただ、そろそろ毒を飲む時間でしたので……毒が足りず、あのようになってしまいました」
「そうか……君は、最低でもきっちりと三回、毒を飲んでいたな。昼も過ぎたし、その時間が来たということだな? 飲み物は何がいい? お茶か? 果実水か? 何かつまめるものも用意させよう」
「ありがとうございます」
 肌身離さず持ち歩いている毒を一、二滴、口に含めばいいのだが、ユージーンがあれこれと世話を焼いてくる。それを鬱陶しいとは思わない。むしろ、なぜか心の奥にぽっと花が咲くくらいに、嬉しかった。
「では、紅茶をいただいてもよろしいですか?」
「わかった。今、人を呼ぶ」
 ユージーンはベルをチリリンと鳴らして、侍従を呼んだ。幾言か告げると、すぐにワゴンが運ばれてくる。テーブルの上には料理と軽食が並べられた。
 クラリスは首から提げていた毒入り小瓶を外すと、紅茶にそこから二滴ほど垂らす。
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