わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「俺の毒は、人を陥れるためには絶対に使わない。……君を救うときにしか使わない。約束する」
 鉄紺の瞳に真剣に見つめられ、クラリスの心臓がトクトクトクと音を立てる。
「わ、わかりました。旦那様を信じます」
 クラリスは恥ずかしさを誤魔化すために、ティーカップに手を伸ばした。一口飲むと、あたたかさが身体に染み渡っていく。だけどこのあたたかさは紅茶のあたたかさだけではない。目の前のユージーンの心のあたたかさだ。
 目頭が熱くなってきたので、涙がこぼれないようにとこめかみに力を入れた。
「どうした? 気分が悪いか?」
「いえ、大丈夫です。そろそろ落ち着きます」
 毒が身体中に回れば、きっとこのドキドキも収まるだろう。そう思いながら、ゆっくりとカップを傾けた。
 ユージーンも軽食に手をつける。
「……そういえば、王城ではこういったパーティーの場ではどうしていたんだ? アルバートによく付き添っていたんだろう?」
「あ、そうですね。そう言われますと、このように毒のない食事が並ぶパーティーは初めてです」
 クラリスのその言葉で、ユージーンはいろいろと察したようだ。
「アルバートも大変だな」
「アルバート殿下の場合、毒というよりは媚薬、睡眠薬、しびれ薬、そういったものを盛られることのほうが多かったですね。あれも毒成分の一種ですから」
 そう言ったクラリスは、紅茶を一気に飲み干した。

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