わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ユージーンは早速クラリスに宛てて手紙を書いた。王都から国境までは馬車で五日かかる距離であるが、手紙であればその半分の時間でやりとりができる。
 クラリスからはすぐに返事が来た。手紙を読んだ瞬間、彼女に対するイメージがなんとなく変わった。少なくとも、毒女という印象はない。
「クラリス嬢から返事がきた」
 執務室にネイサンを呼び出し、クラリスからの手紙を見せつける。
「お前も読んでみろ」
「そんな、お二人の恋文を僕が読んでもいいのですか?」
「恋文、言うな。報告書みたいなものだ」
 肩をすくめたネイサンは、ユージーンから手紙を受け取った。
「きれいな字を書く方ですね。文章も丁寧だ。それに、なんかいい香りがしますね」
 それだけで人の印象は変わる。顔が見えない分、文字でやりとりをするのは気を使うもの。そういった細やかな配慮が、節々から感じられる手紙であった。
「つまり、毒女はユージーン様の提案を受け入れると?」
「お前、そろそろその呼び方はやめたほうがいい。普段からそういうことを言っていると、本人の前でも口に出るからな」
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