わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「そうか、それならよかった。だが、君がすでに彼らと知り合っていたほうが、俺にとっては驚きだったな」
「ですから、それはたまたまなのです」
 内緒にしていたものを知られてしまったような、そんな恥ずかしさがある。別に内緒にしていたわけではないが、積極的に言うべきことでもないと思っていた。
「ネイサンから、君が街に視察のために足を運んでいたのは聞いていたが、まさかあれほどまでとは思っていなかった」
 二年という期間限定であっても、クラリスはこの場所を知っておきたかった。だからネイサンやジョゼフに相談し、領地について学び、そして実際に足を向けて目にした。
「わたくしも身分を隠して、見て回っておりましたから」
 だから今日、街の人たちはクラリスの姿を見て驚いたのだろう。新しく城で雇った薬師だと思っていたはずだ。ネイサンがそんなことを言って誤魔化していたから。
 ただ司祭にだけは薬を渡している以上、その身を明かした。ネイサンが顔見知りだったこともあり、また司祭もユージーンが結婚するという話は聞いていたためだ。
 いや、ネイサンはクラリスを薬師として紹介してくれた。だけど司祭がネイサンとの仲を疑ってきたから、真実を口にしたまでのこと。
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