わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「あっ」
 ネイサンが慌てて口を手で覆ったのを見ると、彼は無意識のうちにクラリスを毒女と呼んでいたにちがいない。この無意識がここぞという場面で出てしまうから、普段からの習慣が大事なのだ。
「失礼しました」
「まあいい、次から気をつけろ。そうだ、クラリス嬢は俺の提案を受け入れるとのことだ」
「離婚前提の結婚、離婚約……考えてみれば、これを提案するユージーン様ってクズですよね」
 先ほどまでクラリスを毒女と言っていたかと思えば、今度はユージーンをクズ呼ばわりする、この手のひらの返しよう。
「互いに歩み寄った結果だ」
「だけど、クラリス嬢は花が好きなんですかね? 温室を用意してほしいだなんて」
 ネイサンが言ったように、クラリスからの手紙にはユージーンの案に同意するが、できれば二年という時間を有意義に過ごすために、温室を用意してほしいという要求だった。
「まあ、間男を望まれるよりは簡単な願いだな。裏庭にある温室、あれをクラリス嬢に使ってもらおうと思っている」
「え? 裏庭の? いいんですか、あそこで。裏庭って、裏が森になってるから……」
「だが、すぐに使えそうな温室はあそこしかない……。まあ、あの場所は森に近いから、今は誰も使っていないが……。注意さえすれば問題はないだろう?」
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