わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ニヤニヤと笑っているユージーンを見れば、クラリスを困らせたいという意図が伝わってくる。だから、そのような姿を見せないように凛として口にする。
「そういった発表も、何度もするものではありませんでしょう? ここの領主は何度も結婚したのかと思われてしまいますよ」
「そうだな。俺は、結婚は一度でいいからな」
 ユージーンはクラリスを抱き寄せ、頬に口づける。それもいつものことになりつつあるので、クラリスも慌てふためくような姿は見せない。そのような反応をすれば、ユージーンを喜ばせるだけだと、やっと学んだのだ。
「では、準備はベネノ侯爵に任せてよいか? 侯爵夫人がドレスを準備しているらしい」
「まあ、お母様ったら」
「よっぽど、この結婚が嬉しかったのだろうと、侯爵からの手紙には書かれていた」
「そうですね。両親は相手が誰であろうと、わたくしの結婚には喜んだと思いますよ? だって両親は、わたくしが結婚しないものと思っておりましたから」
 相手がユージーンだから喜んでいるわけではない。そうはっきりと伝えたつもりであるのに、それでも彼はニコニコと笑ってクラリスを抱き寄せる。
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