わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 そうやって甘い言葉を、彼は耳元でささやいてくる。今に始まったことでもないけれど、こればかりは慣れない。
「俺は焦らないことに決めた。二年後も俺と夫婦でいたいと、君が思ってくれるよう、二年かけて君を落とす」
「ご勝手にどうぞ」
 ツンとそっぽをむくクラリスであるが、ユージーンといると調子が狂ってしまうのも事実。
 結婚式だって無理して挙げる必要はない。どうせ離婚するのだから。
 そう思っているのに、両親には結婚して幸せな姿を見せてやりたいとも思う。
 こんなふうに相反する二つの気持ちを持ってしまったのも、すべてはユージーンのせいなのだ。
「結婚式の日取りについて、君の希望はあるか?」
「いいえ。旦那様もお忙しいのでしょう? お任せします」
「そうか」
 そこで彼は腰を浮かした。
「今日はもう遅い。そろそろ寝るとしよう」
 そして顔を近づけ、今度はクラリスの唇に激しく口づける。唇を重ねるだけでなく、唇で食んで、呼吸もままならないほどの激しいもの。
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