わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 毎日の寝る前の口づけがこうであるのもわかっているのに、これも慣れない。だからもう、この激しい口づけは儀式のようなものであると、そう思って受け入れているのだが――。
「……んっ」
 息苦しくなって呼吸を求めようとした隙に、ぬるりと何かが口の中に入ってきた。
「んっ……あっ……」
 ユージーンの舌が執拗に口腔内を舐め尽くす。すると身体の奥が、疼き始めた。
 寝る前に激しい口づけをしたあとは、身体が火照ってしまうのだ。だけど今日は、いつもよりさらに熱を帯びている。
「ん、ん、んんん……」
 息苦しくなり彼の胸元をドンドンと叩くのは、合図のようなものだった。
 名残惜しそうに、わざとらしく音を立てて、ユージーンは顔を引いた。
「そろそろ、俺が欲しくならないか?」
「え?」
 ユージーンが腰のあたりを、さわりとなで上げた。
「な、な、なりません」
 彼を突き放したクラリスは「おやすみなさい」の挨拶もせずに、そそくさと寝台に潜り込んだ。

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