わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 声をあげて、デリックが抱きついてきた。クラリスよりも背も高くがっしりとした体格だが、こうやって甘えてくる姿を見れば、やはり弟は弟なのだ。
「久しぶりね、デリック。元気にしていたかしら?」
「はい。姉様に会えなくて寂しくて死んでしまいそうでしたが、こうやってお会いできて生き返りました」
 姉弟の感動の再会であるのに、クラリスは背後から冷たい視線を感じていた。ぐごごごごごという効果音が聞こえてきそうな圧を感じる。
「お初にお目にかかります。ユージーン・ウォルターです」
 だが、ユージーンはクラリスとデリックを無視するかのような落ち着いた声色で、挨拶をした。
「ウォルター卿。遠いところ、わざわざ足を運んでいただき感謝する。部屋を用意してあるから案内しよう」
 父親の機嫌がよい。
「では、愛しの妻に案内してもらいます」
 いつまでもクラリスに張り付いているデリックをけん制するかのように、ユージーンは紫紺の瞳を細くした。
「姉様。本当にこの男と結婚したんですか? いくら陛下の命令であっても、相手は選びましょうよ」
「そうね。陛下の命令だからこそ、相手は選べないのよ」
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