わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「ほら。デリックもいつまでも甘えていないで。クラリスだって疲れているのだから、まずはゆっくりとしてもらいましょう」
 母親がいつまでもひしっと抱きついているデリックを引き離す。
 その瞬間、ユージーンの腕が伸びてクラリスの腰を引き寄せた。
「ウォルター卿は、そうやって支えがないと歩けないのですか」
 クラリスを抱き寄せた姿が、デリックにはそう見えたのだろうか。
「いや。愛する妻を手放したくないだけだが? 妻は、目を離すとすぐにどこかに行ってしまうからな」
「ここは姉様にとっては勝手知ったる場所ですから、ウォルター卿が心配されるようなことは何もありませんよ」
 デリックとユージーンの間には何か隔たりがあるようだ。
「デリック、またあとでね。まずは旦那様を部屋に案内するわ」
 その瞬間、なぜかユージーンは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
 王都にいる間、クラリスとユージーンはベネノ侯爵家の別邸で過ごすことになっている。
「旦那様」
 階段を上がりきったところで、クラリスがピシッと腰にまわっている彼の手を叩いた。
「両親の前ではこのようなことをしないでください。恥ずかしいではありませんか」
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