わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「何を恥ずかしがる必要がある? 俺たちは夫婦なのだから、このくらいの触れ合いがあっても問題ないだろう? むしろ、仲の良い様子を、ご両親に見せたほうが安心するのではないのか?」
「そうかもそれませんが……それでも、恥ずかしいのは恥ずかしいのです」
 それでもクラリスの腰を解放しようとしない彼の手を、もう一度力強く叩いた。
「俺の妻は手厳しいようだ」
 おどけてみせるユージーンを、クラリスはキリッと睨みつける。
「旦那様。お部屋はこちらをお使いください」
 クラリスが案内したのは、二階にある客室だった。
「クラリス、君の部屋は?」
「わたくしは、以前、使っていた部屋がありますので」
「夫婦なのに、部屋は別々に使うと?」
「夫婦であっても、ここは旦那様のお屋敷ではありませんから。両親の前でベタベタされるわたくしの身にもなってください」
 きっちりと線を引かねば、ユージーンはどこであろうとクラリスに触れてくるだろう。もしかしたら、人前で口づけすらしてくるかもしれない。それだけは、絶対に避けたい。
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