わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「まあ、そうですけども……相手はクラリス嬢ですよ? 文句、言いそう」
「とりあえず、だ。とりあえず。急いで、他に温室を作らせる」
 少しでも彼女には快適な時間を過ごしてもらいたいという気持ちが、ユージーンの中に芽生えているのが不思議だった。クラリスの手紙を読んで、彼女への印象が少しだけ変わったからだろうか。
 それでも油断大敵。たった一通の手紙。彼女がこちらに来るまでの間、手紙は何度かやりとりをして、彼女の人となりを知っておいたほうがいい。
 だからユージーンは早速返事を書いた。
 温室をすぐに用意すること。ただ、今まで使われていなかった場所であるから、程度はよくないかもしれないという旨を記載した。
 また、他にもこちらで用意したほうがいいものがあれば、遠慮なく伝えてほしいと。
 念のため、クラリスに失礼にならないか、手紙の内容をネイサンに確認してもらうことにした。
「クラリス嬢に甘くありませんか? まだ噂の真相だってわかっていないんですよ? 考えてみれば手紙ですから、もしかしたら代筆を頼んでいるとかもあるのかなって」
 ネイサンはなかなか疑い深い。ただ彼は、本物のクラリスを目にしているわけだから、それだけ疑いたくなるような光景を目撃してしまったにちがいない。
「婚約披露パーティーのクラリス嬢とこの手紙を書いているクラリス嬢が同一人物であるとは、とうてい思えません。中の人が入れ替わったのではないでしょうか」
< 18 / 234 >

この作品をシェア

pagetop