わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「ありがとう、メイ。あなたも疲れたでしょう? まずは、休んだら?」
「では、お言葉に甘えまして」
 クラリスはいつも持ち歩いている毒を二滴、紅茶に垂らした。住み慣れた屋敷に戻ってきたこともあり、ふっと気持ちが軽くなる。
「デリック様は、クラリス様のことが本当に大好きなのですね」
「ええ。わたくしたち、たった二人の姉弟ですもの。……あ、メイ」
 クラリスが少しだけ声を張り上げると、メイはきょとんとする。
「いつも、寝る前にお茶の準備をしてくれていたでしょう? だけど、ここにいる間、それは不要よ」
「どうされたのですか? 寝る前に旦那様とお茶を飲むのが日課だったのではありませんか?」
「違うわよ。勝手に旦那様がわたくしの部屋にやってくるから、それで一緒にお茶を飲んでいただけよ。ここでは部屋も別々だし離れているし、わざわざ寝る前にわたくしの部屋に来ることもないでしょう? それに、先ほども何も両親の目の前でベタベタと触れてこなくてもいいと思うのよ。いったい、何を考えているのかしら」
 一つ不満を口にすると、箍がはずれたかのように次から次へと口から出てくる。
「この結婚は離婚前提の結婚。そう提案したのは旦那様よ? それなのに、結婚式を挙げるために、ここまで来てしまったの。こんな大々的に結婚式を挙げてしまったら、離婚しづらいでしょう?」
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