わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「でしたらクラリス様。離婚しなければよろしいのではないですか?」
「え?」
「もしかして、離婚しなければならないと思い込んでいらっしゃるのではありませんか? そういった前提でお受けした結婚ですから」
 この結婚は離婚前提の結婚である。それはクラリスの中で何も変わっていない。なぜなら、ユージーンとそういう約束をしたからだ。
「旦那様は、奥様のことを好いていらっしゃいますよ。最初、離婚前提の結婚を提案してくるなんて、どれだけ最低な男なんだと思いましたけれど、今はしっかりと奥様のことを愛していらっしゃると思います」
「なっ……ちょ、ま……メイ、何を言っているの?」
「え? 私、何か失礼なことを言いましたか?」
「ち、違うわよ……」
 ユージーンはクラリスに対して惚れたとは言った。だけど、はっきりと好きだとか愛しているとか、そう言われたわけではない。ただ、離婚はしないとか、夫が妻を愛してなにが悪いとか、そのようなことを頑なに言い放っているだけ。
 それでも離婚はしないと口にするのはそういうことなのかもしれないと、微かに期待はしていた。さらに他の者から言われれば、やはりそうなのかと胸を弾ませる。
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