わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 だけど、この結婚を続けてはならない。
「……メイ。ダメなのよ。わたくしは結婚なんてしてはいけないの」
「奥様?」
 メイの声はクラリスの耳を通り抜けていった。
 クラリスは毒師だ。それもただの毒師ではない。毒がまったく効かないだけでなく、ありとあらゆる薬を無効化する。むしろ、毒を定期的に摂取しなければ、命を失ってしまう特異体質だ。
 このように、普通とはかけ離れた人間が、結婚をして子を望んではならない。
 そんなことをすれば、きっと周囲の人に迷惑をかけてしまうから――

 ユージーンとクラリスの結婚式は、王城にある礼拝堂で行われた。
 純白のウェディングドレスに身をつつむクラリスの姿を見た母親は、目尻に涙を光らせた。両親を騙すような仮の結婚式であるのに、そのように感激されてしまってはクラリスの胸もチリリと痛む。
 デリックは目をつり上げながらも「おめでとうございます」と言い、父親にいたっては何も言わない。ただ目尻を下げて、穏やかな眼差しを向けていた。
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