わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 だから、この屋敷にいる間は、絶対にそういうことをしないと頑なに心に決めている。
 いや、この屋敷にいる間ではなく、ユージーンと婚姻の関係にある間、絶対に身体は重ねない。この結婚の先に待っているのは離婚なのだ。
 そのためには、二年間、子に恵まれなかったらという条件が必要となる。となれば、やはり身体を重ねてはならない。
 湯浴みを終え、ナイトドレスに着替えたクラリスは落ち着かなかった。
 わざわざ離れた部屋の客室からユージーンがやってくるのだ。
 コツ、コツ……コツ、コツと、控えめに扉を叩かれる。
「は、はい」
 クラリスも異様に緊張していた。そんなことにはならないと決意しているはずなのに、変に身体に力が入る。
 扉が開いて、隙間から影が伸びる。
「こんばんは、旦那様。お茶でも飲まれますか? いつもと同じハーブティーを用意しておきました」
「そうだな。いただこう」
 湯上がりのユージーンを目にしたのは、何も初めてではない。だというのに、今日にかぎって艶めかしさがある。
「どうぞ。そちらにお座りください」
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