わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 蔦模様が描かれたソファに促した。彼は躊躇いもせずに、慣れたような仕草でそこに座る。
 いつものようにお茶を淹れたクラリスは、向かい側の一人がけの椅子に座った。
「なんだ? 今日は俺の隣にはこないのか?」
「そうですね。今日の旦那様は、何かを企んでいらっしゃるように見えますので」
 ユージーンは意味ありげにニヤニヤと笑ってから、ハーブティーを一口飲んだ。
「旦那様は、今日からこちらの部屋をお使いになると伺ったのですが……」
「そうだな。きちんと式も挙げたことだし、紙切れ一枚の関係から、神の前で永遠の愛を誓い合った関係になったわけだ」
 できることなら、紙切れの前で誓い合った関係で、その紙をびりびりっとやぶきたいところである。
「……ですが。何度も申し上げておりますように、二年後には離婚いたします。そういう約束でしたから」
「だけど、俺は離婚する気はない。君と初めて出会ったときに、そう言ったはずだ」
 この話をし始めると、平行線で終わる。互いの考えが交わる場所などない。
 クラリスは二年後に離婚したい。
 ユージーンは二年後も結婚関係を続けたい。
「なあ、クラリス。この一ヶ月の間、俺と一緒に過ごして、これからもずっと俺と一緒に暮らしていきたいと、そう思うことはなかったか?」
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