わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 鉄紺の瞳を細くして、真面目に問いかけてくるユージーンは、きっとクラリスの心の中を見透かしている。
「ありません」
 それでもクラリスははっきりと言ってのける。
「まったく? 少しもそう思わなかった?」
「まったく思っておりません。少しもそう思っておりません」
 口ではそう言っているが、それは嘘だ。少しはそう思った、かもしれない。だけどそれを悟られてはならない。
「俺は、この一ヶ月で君との距離が縮まったものと思っていた。だけど、それがここに来て、また遠くなったような感じがする。いったい、何があった?」
 彼の瞳に見つめられたら、意思が揺らぐ。
 目を剃らし、両手でカップを包むと、ゆっくりと毒入りのハーブティーを飲む。
「何もありません」
「……そうか」
 ユージーンもそれ以上、何も言わなかった。
 沈黙の中、二人でただお茶を飲むだけ。
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