わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「なんとでも言えばいい。だがな、俺は絶対に君を手放すつもりはない。君だって、俺のことを気に入っているだろう? いや、少なくともウォルター領を気に入っているはずだ」
 ひくりと身体を震わせる。ユージーンのこともウォルター領のことも嫌いではない。
「図星だな。だったら、俺と離婚する必要などないだろう? 離婚したところで、また他の誰かと結婚させられるぞ?」
「……しません。わたくしは、結婚いたしませんし、子も望みません」
 胸の奥がチクリと痛んだ。棘が刺さったような鋭い痛みがあって、苦しくなる。自然と目頭が熱くなった。
「だったらクラリス。……君はなぜ泣いているんだ?」
 そう指摘され、頬を拭うと濡れていた。クラリスは自分でも気づかぬうちに泣いていたのだ。
「俺に抱かれるのが、怖いのか?」
「ち……違います」
「だったら、なぜ?」
 ユージーンが勢いよく立ち上がり、つかつかと近づいてくる。そして簡単にクラリスを抱き上げると、そのまま先ほどのソファに座り直した。
 クラリスはユージーンの膝の上に乗せられ、逃げることができない。
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