わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 そこまで言いかけて、言葉に詰まった。
 ユージーンは食べ物を食べなければ死んでしまう。クラリスは毒を飲まなければ死んでしまう。似たようなもの、だろうか。
「つまり、クラリスが毒を飲むのは、食事と同じようなものだ。気にする必要はない」
「気にします。だって、わたくしたちの子どもが、わたくしと同じように毒を欲する子だったらどうするのですか?」
 それをずっと気にしていた。クラリスがそうであるように、クラリスの血を引く子も同じように毒を必要とする子どもであったら。
 そう考えたとき、クラリスの母親の気持ちがなんとなくわかった。
「そのときは、毎食きっちりと毒を飲んでもらうだけだな。君と同じように」
「それが、嫌なのです。わたくしが毎回毒を飲むのは耐えられます。ですが、わたくしの子も同じようだったらと考えたら、耐えられません」
 ユージーンが、クラリスの頭を自身の胸に押しつけた。
「君が悩んでいたのは、それか? だから、俺と離婚したいと、そう思っているのか?」
「わたくしは誰とも結婚する気はありません。旦那様と離婚したら、毒師として一生を終えるつもりです」
 ユージーンが力強く抱きしめる。
「それでも俺は、君を手放したくないし、君との間に子を望みたい」
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