わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「ダメです」
 くぐもった声で答えるが、ユージーンは力をゆるめようとはしない。
「……もし、俺たちの子がそうだったとしても、俺はその子を愛し、その子が後悔しない人生を歩ませる。クラリスは今、後悔しているのか? 毒師の中でも特異な体質であることを」
「しておりません。むしろ、殿下の役に立てて光栄です」
「その者の人生の価値を決めるのは、その者本人だ。いくら親であっても、決めつけることはできない。もしかしたら、その子もクラリスと同じように考えるかもしれない。すべては、そうなってみないとわからない。起こるかどうかわからないような不幸に怯えて、今の幸せを手放すのか?」
 今の幸せと言われ、はっとする。
 幸せなのだろうか。ユージーンと結婚させられた結果、幸せになったのだろうか。
 生まれてくる子は生まれる前から不幸なのだろうか。
「わたくしは……」
 幸せか。幸せでないか。
 ウォルター領で出会った人たちの顔が、頭の中に次々と浮かんでくる。
 多分、幸せだ。だけど今、それをユージーンには伝えたくなかった。心の奥に、不安があるのも事実だからだ。すべてにおいて幸せであるとは言い切れない。
「……わかった。次の俺の目標は、クラリスを幸せだと言わせることだな」
 涙を吸い取るかのように、ユージーンが唇を寄せた。
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