わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 あの真っ黒い髪を何度ひきちぎってやろうかと思ったくらい、悔しさに満ちあふれたこともある。それだけさまざまな能力に長けている男であるのに、足りないものとしたら女性との縁くらいだろう。
 さらにウォルター領だったら、クラリスにとっても都合はいいはず。
 ユージーンならば、間違いなくクラリスを幸せにしてくれる。
 そう思ったアルバートは、今まで使おうと思えばいつでも使えた権力を初めて使った。
「君は、ウォルター辺境伯のユージーンと結婚したまえ。この件は父にも伝える。もちろん、君の父親にもね」
 それを聞いたクラリスは卒倒した。

 後日――。
 ユージーンもこの縁談を承諾し、クラリスもウォルター領へと向かうことになるのだが、アルバートの誤算としては、クラリスの弟デリックがクラリスを崇拝していたことくらいだろう。
 クラリスの後釜としてアルバートの毒見役となったデリックであるが、顔を合わせるたびに「姉様を捨てやがって」と悪態をついてくる。
 だが、クラリスが長年、矢面に立っていたのだ。
 アルバートにとってはこれくらいどうってことないし、デリックもクラリスがいなくなった寂しさをアルバートで紛らわせているに違いない。
 臣下としては褒められた行動ではないが、クラリスの弟と思えばかわいらしいものだった。
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