わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「ハリエッタ様が殿下を望みたいと思ったときに受け入れればよろしいのですよ。もし無理矢理襲ってくるようでしたら、殿下の殿下が使い物にならなくする薬を、殿下に飲ませますから」
 両手の下に隠されているハリエッタの顔が、クスリと笑った気配があった。
「ハリエッタ様。落ち着かれたのであれば、どうか顔をあげてください」
 先ほどから彼女は下を向き、顔を覆ったままだ。
「ハリエッタ様……?」
 返事がない。彼女の首元に触れると、脈動を感じる。
「ハリエッタ様?」
 彼女の顔に耳を近づけ、呼吸音を確認した。
「眠っていらっしゃる?」
 それにしてもこれは不自然だ。今まで会話をしていたのに、急に眠りに落ちるのは、病のせいか薬のせいか。
 しかし、ハリエッタがそういった病であるとは聞いていない。となれば、やはり薬によるものだろう。
 ハリエッタのお茶、お菓子、それらに顔を近づけにおいを確認するが、睡眠薬が混入された様子はない。
(もしかして……この花?)
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