わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 テーブルに飾られている見慣れぬ花。においを嗅ぐと、甘い香りがする。
(睡眠薬に使う材料のにおいに似ているかも)
 見慣れぬこの花から漂う甘い香りが、ハリエッタを眠りに誘ったのだ。
 クラリスとしてはこの花に興味がある。誰がどこで手に入れた花なのか。遥かなる異国にはこういった花が自生しているのか。それとも意図的に品種改良されたものなのか。
 いや、今はそれどころではない。
 ハリエッタを眠らせてどこかへ連れ去ろうと考えている人間がいる。
 誰かを呼びに行きたいが、その隙にハリエッタだけ連れていかれたらと考えると、迂闊にこの場を離れられない。
(ハリエッタ様。よりによって、人払いをされていたのよね……)
 となれば、ここはクラリスがハリエッタを守らねばならないだろう。
 できるだけ椅子をハリエッタに近づけて座り直した。
 カタカタと外から物音が聞こえる。誰かがやってきたのかもしれない。テーブルの下で彼女の手首をがっしりと掴んで、クラリスは眠っている振りをした。
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