わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ふと、ハリエッタのことが思い出される。彼女はどうしただろうか。
 気になっているものの、きっとあのサロンで眠っているだけにちがいない。だれかがハリエッタを探しに来て、異変に気づいてくれればいいのだが。
 とりあえずクラリスは、その場でじっとしていた。
 馬車が止まると、また荷物のように担ぎ上げられておろされた。馬車に揺られていたのは三十分程度だろうか。
 建物の中に入ったが、手入れが行き届いているところのようだ。
 乱暴に転がされるかと思ったが、ふかふかのソファにおろされた。そこで麻袋をとられたのか、瞼の向こう側が明るくなった。だけどまだ、寝たふりを続ける。
(ここは、どこのお屋敷かしら?)
 肌に触れるまろやかな外気、ほのかに香る甘い香り、そして座らせられている場所から判断すると、薄汚れた小屋ではないだろう。しっかりと掃除が行き届いている屋敷の一室。
 目を開けて周囲を確認したいが、まだ人の気配がする。
「じゃ、俺たちはこれで。約束はきっかりと守ったからな」
 サロンで聞いた男の声だ。話の内容から察するに、彼らは誰かに頼まれてクラリスをさらってきたようだ。
 問題は、その誰かである。
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