わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 静かにソファが沈んだ。隣に誰かがやってきた。体温が近づき、息づかいを頬に感じる。
「あぁ……クラリス様……。今まで、どちらに隠れていたのですか……」
 男の声だった。しかし、この声には聞き覚えがある。
(もしかして、メンディー侯爵子息のファンケ様? でも、ファンケ様はハリエッタ様を執拗に狙っていて、だからあの婚約披露パーティーの日にも……)
 アルバートとハリエッタの婚約披露パーティーでは、ハリエッタの飲み物に睡眠薬が仕込まれていて、その犯人ではないかと疑っていたのがファンケなのだ。
 それに気づいたクラリスは、睡眠薬入りの飲み物を乱暴にはね除け、ハリエッタを退場にまで追い込んだ。
(だから、わたくしを恨んで……?)
 なんとなく状況が読めてきた。できるだけファンケを挑発させないようにしなければ。
「あぁ……クラリス様。お美しくなられて……」
 恨まれているとしたら、何をされるかわからない。
 心臓は痛いくらいにドクンドクンと音を立てている。
 幸いにも両手はお腹の前でしばられていた。
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