わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 やはりファンケはクラリスが眠っている間に命を奪おうとしたのだ。
 ゴクリと喉を鳴らしてから、クラリスはスカートをたくしあげ、次に使えそうな薬を考える。
 だが、毒はもうない。いつも足にくくりつけているのは、毒虫や毒蛇をおびき寄せるような香りを放つ液体だ。それから、それらの毒を採取するための小瓶。あとは、解熱剤とか栄養剤とか、毒ではなく万が一に備えての薬である。
「クラリス様……。そんなことをして、私を誘っているのですか? その人を蔑むような眼、たまりませんね」
 右目に手を当てつつ、ファンケは鼻息荒く近づいてくる。
 武器になるようなものは、いつも持ち歩いている瓶類しかない。手首を縛られていても、太ももであれば手が届く。
(と、届いた)
 手探りで手にした瓶の栓をなんとかはずす。
(え? 空?)
 これは毒採取用の空き瓶だったのだろうか。とにかくファンケに向かって投げつけた。
「……いたっ」
 瓶はファンケの額にあたった。だけど、何事もなかったかのように彼はゆっくりと近づいてくる。
「クラリス様。おとなしくしてください」
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