わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 ニタリと笑った彼の右手が、ドレスの胸元に向かって伸びてきた。
 ――ビシャッ!
 やっとの思い出手にした瓶には液体が入っていた。それが見事にファンケの顔にかかったのだ。いったい、なんの液体であるかは手探りであったためわからない。
 だけど、時間稼ぎにはなった。
「うぅっ」
 彼はその場で膝をつき、ガクガクと身体を震わせ始める。
(もしかして、最初のアレが効いてきたのかしら……)
 クラリスが首からぶら下げていた瓶に入っていた毒は痺れ薬である。いっとき、身体の自由を奪う毒薬だ。いくら毒といっても、人の命を奪うようなものは持ち歩いていない。
 痺れ薬はファンケの目にかかったため、そこから体内にゆっくりと吸収されていったのだろう。クラリスが持ち歩いている毒は、経口摂取や粘膜摂取によって効果が高まるもの。
 もちろん、中には触れただけで毛穴から吸収されるような毒もあるが、それは厳重に鍵がかけられた棚で保管されている。
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