わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
(はやく、ここから逃げ出さなければ……)
 そう思って身体を起こすものの、クラリスの目の前が白んできた。
(うっ……これは……毒切れの症状……)
 ハリエッタから昼食兼の茶会に誘われていたため、昼の分の毒をまだ飲んでいない。ハリエッタが目を離した隙に自分のカップに毒を入れる予定であったが、そのタイミングを逃していた。遅くなっても帰りの馬車で飲めばいいと、そう思っていたくらいだ。
(今ならまだ間に合うわ)
 それにファンケも痺れ薬の影響で動けないから、まさしく今がとのときである。
(……って。痺れ薬を全部、ファンケ様にかけてしまったわ)
 あれはクラリスにとって五日分の毒である。必要量を持ち歩くために、濃度を濃くしてあった。だからファンケもあれだけで、すぐに反応を示したのだ。
 クラリスの心臓が、ドクドクと大きく拍動する。呼吸も苦しくなり、手のひらにもじっとりと汗をかき始めた。
(こんなところで死んでしまうのね……)
 少しでも呼吸を楽にするために目を閉じれば、目尻からじんわりと涙が溢れてきた。
 やりたいことはまだたくさんある。せっかくウォルター領で毒と戯れる場所と時間を作ってもらったというのに。
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