わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 アルバートとハリエッタの二人の晴れの姿を見届けられないのも心残りだ。
 デリックはきちんと毒師としての責務を果たせているだろうか。
 クラリスが毒切れで死んでしまったら、母親はまた自分を責めるだろうか。父親はそんな母親をどうやって宥めるのだろうか。
 いや、それよりもユージーンに伝えていないことがあった。もしかしたら、それが一番心残りなのかもしれない。
 アルバートと共に過ごした十年以上よりも、ユージーンと共に暮らしたこの二か月のほうが、喜びに満ちていた。
 彼との生活はすべてにおいて満たされており、毎日が楽しかった。自然と笑顔がこぼれたものだ。
 きっとその気持ちが「幸せ」なのだろう。それを伝えられないのが悔やまれる。
 薄れいく意識の中、ユージーンの姿が脳裏に浮かんだ。
(ユージーン様。わたくし、あなたと結婚できて幸せでした――)

「……リス、……リス、クラリス……」
 誰かがクラリスの名を呼んでいる。それはどこか苦しそうな男性の声。
「んっ……」
「クラリス、クラリス、気がついたか?」
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