わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「旦那様……?」
 目を開けると、鉄紺の瞳を目一杯に広げたユージーンの顔があった。
「クラリス、気がついたか……よかった……」
 その「よかった」は紛れもなくユージーンの本音なのだろう。
「旦那様? ここはどこですか? わたくし、誰かにさらわれて……?」
「ああ。そうだ。君はメンディー侯爵家のファンケにさらわれたんだよ。ここはその侯爵家の地下にある部屋だ」
「……地下?」
 その地下の部屋で、クラリスを人知れず殺そうとしたのだろう。だけど、クラリスが持っていた痺れ薬がファンケの動きを制限した。
「……それよりも。どうして旦那様は、この場所がわかったのですか?」
「ああ、それはだな」
 ユージーンの顔が向いた先を、クラリスも目で追った。
「あっ! あれはわたくしの蛇さん」
 ファンケには二匹の蛇が絡みついていた。もちろんその蛇は毒蛇である。
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